yutuki2tuki's blog

なにもしていません

押井守オールナイトを見てきた@新文芸坐

押井守作品は好きだけどまとめてみたのは久しぶり。今回見たのは朝日新聞で「犬でも分かる押井守「犬・鳥・魚」講座」という連載があり、それがとても面白かったので見たいと思っていたところ、丁度オールナイト上映があったので行った。
この連載で語られる「犬・鳥・魚」理論というのはこういうものだ。

「犬・鳥・魚」

さて押井作品に頻出する三大象徴「犬・鳥・魚」は何を意味するのか? 私の頭の中で出来上がった分類表はこんな感じです。

 〈鳥〉=言語、精神、神、天使、少女、子ども 

 〈犬〉=仲間・主人を求める者、さすらう者、男

 〈魚〉=本能、夢、無意識、性欲、身体、衝動、暴力、女、母、妻

 この分類を基に押井作品を見直すと、〈鳥〉と〈魚〉が結びついて危機に陥った世界に〈犬〉が現れ〈鳥〉と〈魚〉を分離(除去)して平安を取り戻そうとする、という基本構造が浮かび上がってきます。それが端的な描写として現れたのが、前回の本欄で指摘した「堕胎モチーフ」であり、その陰にはある時期の押井監督が抱えていた家族問題が――ていうかぶっちゃけ「アパートで自分を待つ妻と娘から逃げたい」という願望が塗り込められているんじゃないか、というのが私の妄想的解釈なのです(あーあ、言っちゃった)。
「犬・鳥・魚」講座その2 ヒロインは不吉だ

オールナイト上映では以下の4本が上映されたのだが、ほぼこの理論は適合していたといってよい。このおかげでふつう眠くなってしがちな押井映画の、隠れた(本当は顕になっていた)隠喩に満ち満ちた世界を楽しむことができ、とてもよかった。


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〈鳥〉=柘植 
〈犬〉=後藤(+荒川)
〈魚〉=しのぶ

4つの作品のなかでこれが一番見る目が変わった。上の通りに主要人物を分類し「〈鳥〉と〈魚〉が結びついて危機に陥った世界に〈犬〉が現れ〈鳥〉と〈魚〉を分離(除去)して平安を取り戻そうとする」という見立てをすると、いやあなるほどといった感じでよくわかる。
特にこの映画は、象徴としてだけでなく具体的に鳥・犬・魚が出る映画でもあり、またその並行関係として
鳥=戦闘機、飛行船、空
犬=自衛隊、地面(地下道)
魚=海
が登場しドラマの奥行きをつけてくれる。とりわけ鳥に分類される飛行船は、登場するたびに不気味さ、おぞましさを感じた。
まあともかくもこの映画はとても良く出来ている映画なのだなと改めて実感した。


天使のたまご

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〈鳥〉=少女 
〈犬〉=少年
〈魚〉=たまご

今までいまいちピンとこなかった作品で「まあ押井さんが好き勝手作った作品だしw」とか思っていたわけだが、この「鳥・犬・魚」を当てはめると「なんだこれ、めっちゃ単純な話やん!」と劇場で叫びたくなるくらいよくわかった。
要はこの話は、〈魚〉=女に憧れる少女がその代替物であるたまごを抱えて瓶に水を汲んだりして(これは受胎の模倣である)日々過ごしているわけだが、そこに少年がいきなり戦車(男性器のような砲台)に乗ってやってきて、最終的にたまごを割って(つまり貫通して)、少女は女になりました、という話である。少女から女への翻身は、劇中では少女が崖から落ちて水面に映る自分と合わせ鏡になり(このモチーフは他作品でも度々登場する)、水の中に落ちていきたまごを産む、という形で描いている。まあこれは記事でも書いてあるからドヤ言えないけど。。。


GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0

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〈鳥〉=素子 
〈犬〉=バトー
〈魚〉=人形使い

ちなみに記事ではこう解説されている。

主人公・素子は大人の女であり、大きな窓のある部屋(水槽のように見える)で暮らし、趣味はダイビングなので〈魚〉。一方、主人公なので〈犬〉の役割も担うところがねじれているというかユニークですが。で、彼女と融合を果たす「人形使い」は天使の姿で降臨します。人形使い=プログラム=言語なので属性は〈鳥〉。天使の姿も、聖書の言葉を素子に送るのも、「犬・鳥・魚」理論からは当然といえます。その後、素子にあてがわれたのは少女の義体。しかし声は大人の女。〈魚〉と〈鳥〉の融合体にふさわしいキャラと言えるでしょう

ということで〈鳥〉と〈魚〉が記事と逆になっているが僕はこっちの方があっているのではという気がする。まあこっちの方がしっくりくる感じがするだけなのだが、とりわけこの2.0の場合、人形使いのCVが家弓家正から榊原良子に変更されている。榊原といえばパトレイバーのしのぶさんである。そもそも人形使いは、はじめ「彼女」と呼称されているし、まあこっちの方がいいんじゃね、と。。。いやわかんないです。
ちなみに2.0では部分的にCGに差し替えられているのだけど、映像的にはこれといってよくないな、という感じで原作者の原作レイプになっている感じはする。が、この「鳥・犬・魚」からすると、鳥=飛行機と魚=ダイビングの部分が変えられていて、意味論的には正しいと思った。広がりをもって言えば、押井監督はCGというものに、この世のとは別のもの、より物質的な面を強調したいときに使うのかなと、この変更点を見て思った。これは「イノセンス」でも言えると思う(例えばコンビニのシーン)。


イノセンス INNOCENCE

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〈鳥〉=素子、人形 
〈犬〉=バトー、トグサ
〈魚〉=素子、(ガブリエル?)

この映画は「鳥・犬・魚」は少し当てはめにくい作品だと思う。というのも僕の見立てでは、このイノセンスの世界には基本的に〈犬〉しかいなくて、〈犬=人間(男)=意識〉が〈鳥=人形=無・意識(意識が存在しないこと)〉や〈魚=動物=無意識〉に憧れる、というのが中心に描かれているからだ(多分)。この映画が言葉や引用が過剰なのは、つまりはそういうことなのだと思う。そういうこと、というのは結局、言葉を過剰にしないと〈犬=人間(男)=意識〉は世界を維持できないからだ。
久しぶりに劇場で見たわけだが、豪華絢爛な映像と去勢的な物語に、すっかり沁み込んでしまった。公開当時僕はこれを観に3回劇場に通って、それを駆動したのは遠くの世界への憧れからではあるが、しかし久々に観て、ああ僕はこの映画が好きだったのだ、ということをこのとき初めて気付いたような感じがした。素晴らしい映画だった。