yutuki2tuki's blog

なにもしていません

ボストン美術館展に行ってきた


どどん!

これは何でしょう。そうです、龍です。
曾我蕭白雲龍図」。奇っ怪な顔でしょう。これが見たくて今回行って来ました。

特別展「ボストン美術館展 日本美術の至宝」


東京国立博物館

 東洋美術の殿堂と称されるアメリカのボストン美術館には、10万点を超える日本の美術品が収蔵され、その量と質において世界有数の地位を誇っています。この日本美術コレクションは、ボストン美術館草創期に在職したアーネスト・フェノロサ岡倉天心以来収集が続けられてきました。その中には、日本の美術を語る上で欠かすことの出来ない優れた作品が多く含まれ、近年の調査においても多くの重要な作品が見いだされています。
特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝

ボストン美術館にあるので「国宝」にはなりませんが、国宝級の作品ばかりだそうで。作品は奈良時代の仏教画から明治時代の絵画まで幅広くありましたが、個人的には江戸時代の屏風絵などの作品には感激しました。尾形光琳「松島図屏風」長谷川等伯「龍虎図屏風」伊藤若冲「鸚鵡(おうむ)図」「十六羅漢図」、そして曾我蕭白の作品群などなど、作者の名前を挙げるだけで凄いですね。どの作品も素晴らしかったです(絵はこちらにあります)。

ここではその中でも特に面白かった作品をひとつ紹介します。

吉備真備入唐絵巻」

江戸の作品がよかった! と前置きしておいてすぐの平安時代の作品ですw いやこれは全然期待してなかったのですが、ツイッターでこれがよかったというのがあったりして気にはなってたんです。まあ、まずはこれを見て下さい。

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これは何でしょう。まあよくわかんないですよね。ななめ下を向いて人が座っているのはわかると思います。ちなみに左の赤い顔は鬼です。

この作品は平安時代後期に後白河院の命で作成されたそうです。タイトルの通り遣唐使として渡来した吉備真備が唐に行ってきた時の話を絵巻物にしたものですが、何が面白いのかというとその物語。

―時は奈良時代
遣唐使として唐に向かった吉備真備
ようやくかの地に来た真備は着くやいなや楼閣に幽閉されてしまいます
唐の人々は帝の命で日本から来た真備にいじわるをしようと考えているようです
自分からでは降りられない高い楼閣に閉じ込められたまま
しかもそこには鬼が出るとのうわさ……
時を経ずしてやってきた真っ赤な鬼
さあ真備を喰らおうとするかと思いきや、どうやら様子がおかしい
なんとこの鬼、実は唐に行ったまま帰らぬ身となった
阿倍仲麻呂の果ての姿だったのです!
姿は変われど同じ日本人、彼らは協力して帝の仕掛ける難題に挑むのでした―

(筆者の大体の要約)

とまあこんな感じで始まるのですが、さすがに鬼の仲麻呂。すごい。鬼だけに超能力を持ってます。それを駆使して難題はさくさく解決していきます。この絵巻では2つの難題が出されます。まずその1

■「文選」とかまじワカンネだろうから問題出してやろうぜ

「文選」とは隋唐以前を代表する文学作品の多くを網羅した詩文集。日本ではまだ「文選」は知られていませんでした。そんなのを問題にして聞くなんて、なんてセコいやつら!
現代日本で喩えるなら「(」・ω・)」うー(/・ω・)/にゃーって何の作品か知ってるか?」と聞くようなものです(違う)。

「文選」
中国南北朝時代南朝梁の昭明太子によって編纂された詩文集。全30巻。春秋戦国時代から梁までの文学者131名による賦・詩・文章800余りの作品を、37のジャンルに分類して収録する。隋唐以前を代表する文学作品の多くを網羅しており、中国古典文学の研究者にとって必読書とされる。
文選 (書物) - Wikipedia

当然ながら吉備真備は知らないわけなのでもう大変。じゃあどうするかというと……
かつて一世を風靡したカンニングです。カンニングするため彼らは超能力を駆使して空を飛ぶのです。
そう、さっきの絵は座っているのではなく、座り「ながら」飛んでいる姿なのです!



とはいえイメージがつきにくいと思いましたので、マンガ風に手を加えてみると、
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こうなります。





世の中には不思議な飛び方をするキャラはたくさんいますね。

まずは桃白白。
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次にゴジラ
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そして吉備真備
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むしろ前二つの起源として、吉備真備を置いてもいいかもしれません(キリッ(そんなことはない)。


閑話休題。


屋敷に忍び込み聞き耳を立てながら(この姿も実にユーモラス)カンニングをして「文選」を知った吉備真備は、やってきた帝の使いに「『文選』とかマジ知ってるんですけど」とドヤ顔で答えます。その一部始終は展覧会のHPのほうがわかりやすいのでご覧下さい。



まんまと答えたことに驚いた帝は次の難題を出します。

■「囲碁」とかまじワカンネだろうから勝負してやろうぜ

「囲碁」とは交互に盤上に石を置いていき領域の広さを争うボードゲームの一種…まあいわゆる囲碁です。日本ではまだ「囲碁」は知られていませんでした。囲碁の「い」の字も知らない吉備真備にそんな勝負挑むなんて、なんてセコいやつら! 現代日本で喩えるなら「お前、ドリランドで勝負しろ!」と言うようなものです。僕すら知らないドリランド!

真備は幽閉されている天井の格子を碁盤に見立てながら囲碁の練習はしたようです。囲碁はチートできるドリランドとは違いますしね。むしろ超チート力である超能力も勝負においては使いませんでした。「勝負は正々堂々とかカッコいいな真備…!」、とか思いきや

碁石を飲み込んで勝ちました。

なんだよそれ。普通にズルかと。普通にバレるだろうと。
当然ながら唐の人々から怪しい目で見られます(そう絵に書いてあります)。
ということで下剤を飲まされることに……
ここで超能力の登場(遅い) 碁石は超能力によってどっかに行きました。碁石の見つからない真備の嘔吐物を唐の人々が見つめるシーンがあるのですが、これが実に寂しげです。

そんな感じの話が四巻全25mもの絵巻物で描かれます。なんで法皇様はこんなの作らせたのだろうか……。もうひとつ展示されている平治物語絵巻 三条殿夜討巻」が、その後白河院を拉致した平治の乱を描いたダイナミックかつスリリングな作品なだけに、よけい印象的でした。展覧会でこんなニヤニヤしながら見たのも初めてでした。


「吉備大臣入唐絵巻」について書きませんでしたが、一番初めに挙げた通り、なかなか見れない日本の傑作が揃った展覧会です。特に曾我蕭白の「雲龍図」は見る価値大です。
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横10m超の巨大な作品です! でかすぎてブログの幅だと小さくなるジレンマに陥ってますが、本物は圧巻です! これ終わったらいつボストンから帰ってくるかわかんないですからね。

あと今日のお土産。

個人的にはキュートな「龍雲図」がプリントされたトートバックが一押しです。

とまあ、興味を持たれた方はぜひ足を運んでみてください。