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太陽を盗んだ男 メモ

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]

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ごくごく普通の中学教師が、プルトニウムを盗み出して自らの手で原爆を作り上げ、国家に挑戦していく姿を描いた、伝説の監督・長谷川和彦による反体制的ピカレスク・ロマン。一見荒唐無稽風でアラも多いが、それを凌駕(りょうが)する映画のパワーに満ち満ちている快作であり、20世紀を代表する日本映画の1本にこれを推す者も多い。
特に、前半の原爆を製造する際の描写が秀逸だ。いつもフーセンガムをふくらませている頼りなげな犯人を沢田研二が好演。また、彼が要求する事項が「TVのナイター中継を最後まで見せろ(79年当時は、放映時間が定められていたのだ)」とか「ローリングストーンズを日本に呼べ(当時、彼らは麻薬所持のせいで日本に入国できなかった)」と、何とも時代の空気を感じさせる。対する体制側には菅原文太というキャスティングの意外性もおもしろい。(amazon商品説明より転載)

まずはこの動画を見て欲しい。この映画がまず何よりも、アクション映画としてすごい映画だということがわかると思う。

冒頭のカーアクションもさることながら4:00あたりのヘリコプターからの落下シーンも肝をひやりとさせられる。

アクション映画としての側面はありつつも、この映画のほんとうの主題とは戦後日本の空虚さなのだろう。タイトルにある「太陽」とは素朴な意味では「原子力」であるが、その裏にあるのは日の丸つまり「日本」である。原子力を手に入れた主人公の城戸は、国家に対して要求を行うが、しかし彼が求めるのは、先の引用にあった通り「TVのナイター中継を最後まで見せろ」であり「ローリングストーンズを日本に呼べ」であり、また街中にばら撒かれる5億円である。これらには理念も何もない。消費者としての個人の要求でしかない。
これと対比的にあるのが、冒頭に登場するバスジャック犯である。彼は戦争で息子を亡くした男であり、その要求とは「陛下に会ってお話をしたい」ということ。特攻姿にマシンガンと手りゅう弾を持った男は、語ってはいないものの天皇を命を狙っていたのだろう。付け加えておくが彼の天皇への思いは屈折している。敬意と憎しみが混在している(そしてその描き方はただしいように思う)。

終盤、犯人を追う刑事・山下と犯人の城戸が対峙する場面。ローリングストーンズの来ない日本武道館(中心のない空虚さ)を背に、城戸と山下が語る。場所は皇居のすぐ近く、科学技術館の屋上。

城戸 俺が間違っていた―あんたもただの犬だ。
山下 ああ俺は犬だ。30年間体を張って、この街を守ってきた犬だ。
城戸 この街はもうとっくに死んでいる。死んでしまっているものを殺して、何の罪になるというんだ。
山下 ふざけるな! お前のようなやつに人を殺す権利などあるもんか。お前が殺していいたったひとりの人間は、お前自身だ。お前がいちばん殺したがっている人間は、お前自身だっ! 死ねえ!

公開されたのは79年。まさにバブル時代の直前だ。この語りと類似しているのが、押井守パトレイバー2」の終盤にある。ちなみにこちらは93年、バブルの終わった後、東京・夢の島で語られる。

柘植  ここからだと、あの街が蜃気楼の様に見える。そう思わないか
しのぶ 例え幻であろうと、あの街ではそれを現実として生きる人々がいる。それともあなたにはその人達も幻に見えるの
柘植  3年前、この街に戻ってから俺もその幻の中で生きてきた。そしてそれが幻であることを知らせようとしたが、結局最初の砲声が轟くまで誰も気付きはしなかった。いや、もしかしたら今も
しのぶ 今こうしてあなたの前に立っている私は、幻ではないわ